名古屋市依存症支援者研修会(アルコール健康障害) ~アルコール依存症臨床は面白い~

2023.10.29(日) 

 午前最初のお話は、「アルコール依存症臨床は面白い~私がこの50年から学んだこと~」と題して、東布施野田クリニック名誉院長 辻本 士郎 先生にお話を頂きました。先生は、学生時代より精神科の医師を志しておられ、「依存症は、性格異常の問題」と言われていたことに違和感を抱かれ、アルコール臨床をやろうと思われたとのことでした。

 かつては治療者・支援者が患者さんに暴力をふるってしまう事件が全国で度々起きていたとのことで、そういった経緯を経て、大阪では何人ものドクターが力を合わせ「大阪方式」を開発されたとのことです。後半は、その歴史や治療・支援のコツをとても分かりやすく、先生ご自身の体験談を交えてお話し頂きました。

 お話を伺い、病の治療を目的とする病院で、暴力事 件などの痛ましい出来事が起きてきた歴史を知ると、改めて依存症という病気の難しさと恐ろしさを感じずにはいられませんでした。例え治療者・支援者であったと   しても、病気に対する十分な知識や連携体制がなければ、容易に怒りや無力感といったネガティブな感情  に囚われてしまうのだなと思われました。しかしそんな中でも多くの人々が連携・協力し、数々の難局を乗り越えてきたこともまた一つの歴史なのだと知りました。

  幸いにも、現在では多くの知恵が蓄積され、関係機関の連携も整備されてきています。今回の研修にご参加 頂いた方々も含め、ぜひとも多くの方に加わって頂き、「依存症臨床の輪」が更に豊かなものになっていけば  よいなと思われました。

 午後最初のお話は、「アルコール依存症の看護~看護師が知っておくと役立つポイントと関わり方のスタンス~」と題して、久里浜医療センターの看護師である 樋田 香織 先生にお話を伺いました。

 前半は、久里浜医療センターの取り組みを看護師の視点からご紹介いただきました。患者さんの示す症状をアルコールの離脱症状と決めつけず、全身を丁寧に検査をすることで、合併症の存在を見落とさないことが大切であるとのお話でした。その背景にあるのが、「命を守る視点」とのことです。

 また後半のお話では、入院中には、「断酒の3本柱 :定期的な通院、抗酒薬服薬、自助グループ参加(オ ンラインも可)」についてを丁寧に説明され、それを踏 まえた上で、「自分なりの3本柱を作って退院しよう」と 話しているとのお話がありました。

 頑なに「こうすべき」 という方針に従わせようとするの ではなく、患者さんの状況や状態に合わせて伝え方を整えていくことの大切さを学ばせて頂いたように思います。

   加えて、認知行動療法をベースとした久里浜医療センター版の集団治療モデル「GTMACK」のテキストについては、ホームページからご覧になれるとのことで した。ご興味を持たれた方は、ぜひ一度ご覧いただければと思います。

 14時からは、名古屋南断酒会より小栗政義さん、次いで依存症ご家族の方にお越しいただきお話を伺いました。

 小栗さんからは、断酒会の歴史や活動実績の話に加え、人間関係においても大きな変化があったとのお話しが伺えました。「断酒会に参加し、他の方の話をじっくり聞く中で、職場の人の話もじっくり聞けるようになり、間をおいて話せるようにもなった」とのことでした。「言いっぱなし、聞きっぱなし」を経験することで、たくさんの新たな発見、気付きがあったとのことです。

 ご家族の方からは、依存症の方を支える家族としてどんな思いをされてきたかについてお話し頂きました。苦難が続く中、葛藤を抱えつつそれでも何とか前へ進もうとされる力強いお気持ちを伺わせて頂くことができました。ありがとうございました。

 当クリニックスタッフの 岡本 奈都美(精神保健福祉士)からは、「西山クリニックの取り組み」について、ご紹介させて頂きました。デイケアでの活動内容をはじめ、集団療法や教育プログラムの内容についてもお話させて頂きました。

 最後は名古屋市役所健康増進課の方より、名古屋市の依存症対策について、現状と課題などの報告などがなされました。