依存症の方が家族の中にいる生活というのは、メチャクチャ大変です。依存症は、「家族を巻き込む病気」と言われており、依存症の方が苦しんでいるのと同様に、そのご家族も深く傷つき、苦しんでいます。疲れ果てておられる方も少なくないことでしょう。しかしその一方で、家族の方々の回復が、依存症本人の回復につながることが多々報告されています。なぜそういったことが起こるのでしょうか。
これを理解するには「家族システム」という考え方が有用です。家族システムとは、文字通り家族を一つのシステムとして捉え、その中のメンバーは相互に影響を与え合っているものとして理解します。システムの中においては、原因と結果の関係は常に一方向的なものではなく、ちょうど下図のように交互に入れ替わるものとして捉えられます。
家族メンバーの誰かに依存症が発症した場合、家族システムの中で最も良く起こる現象の一つが「悪循環の強化」です。良かれと思ってとった言動が、病気の部分に利用され、治したいはずの病気をまるで支えてしまうようになること(イネイブリング)は、しばしば起こりうる出来事です。
これは、家族の方々が思われる「早く止めてもらいたい!」「病気なら早く治ってほしい!」という思いは何も間違ってはいないのに、そのエネルギーが、病気の方にパワーを与えてしまった結果と言えるでしょう。
残念なことに、どんなに大切に思っても、思いの強さだけで病気を治すことは難しいのです。
ではどうすれば、そういった悪循環から抜け出せるのでしょうか。また家族として、本当の意味で病気になった方の力になるには、どうすればよいのでしょうか。
それを理解するためにまずは、家族内でどういったコミュニケーションの流れが生じているかを知ることが必要なように思います。普段、行っていた言動が、どんな影響や効果を生んでいるのか。プラス面とマイナス面の両方からそれらを知ることが、大きな手助けとなることでしょう。
当院の「家族向けレクチャー」や「家族グループ」では、病気についての知識とともに、他の方の体験談からもこれらを考えることが可能です。特にグループにおいては、ご自分の話をゆっくりと聞いてもらいつつ考えていけますので、家族の方々ご自身の回復も、きっと実感いただけることでしょう。そんな中で、悪循環は次第に好循環へと変わっていくものと思われます。
心理士 松井真佐尚